起業を志す方や、新規事業を立ち上げようとしている経営者の方から、こんな相談をよく受けます。

「サービスは一つに絞ったほうがいいのでしょうか? それとも、間口を広げて何でも受けられるようにしておくべきでしょうか?」

実はこれ、私自身も開業1年目にとっても悩んだテーマです。行政書士・中小企業診断士として独立してから、「まずは知ってもらわなければ」と、とにかく多くの場に足を運び、何度も自己紹介を繰り返してきました。

ある時は「専門性を絞らなければ」と一つのサービスをプッシュし、またある時は「機会を逃したくない」と風呂敷を広げる……。そんな試行錯誤の末にたどり着いた、ひとつの「結論」があります。

今回は、私が経験した「絞り込みの恐怖」と、それでもなお「絞るべき」だと言い切る理由についてお話しします。

「何でもできる」が、実は一番紹介しにくい理由

開業当初の私は、「どんな相談にも応えたい」と考え、幅広いメニューを揃えました。 知識としては「商品・サービスは絞り込むべし」と分かっていても、いざ実行するのは勇気がいるものです。「売れなかったらどうしよう……」という不安が、どうしてもブレーキをかけます。

しかし、実際に多くの方とお会いして自己紹介をしてみると、案の定、大きな壁にぶつかりました。

それは、「何でもやります」と言う自分自身が、一番苦しくなってしまうということでした。 周りを見渡せば、「〇〇ならお任せ」「〇〇のスペシャリスト」と、自分の旗を鮮明に掲げているプロばかり。そんな中で「法務も経営も、幅広くサポートします」という私の言葉は、自分で説明しながらも「響いていないな」と痛感するほどでした。

実はこれ、紹介する側の立場になってみるとよく分かります。

誰かを誰かに紹介するとき、人は「〇〇で困っているなら、あの人だよ」というシンプルなラベルで繋ごうとします。ラベルが多すぎたり、ボヤけていたりすると、紹介する側の記憶に残らず、候補にもあがりません。 「何でもできる」は、裏を返せば「これが一番得意、という決定打に欠ける」と受け取られてしまうのです。

「絞っても広げても、最初は仕事がない」という逆転の発想

では、絞り込んだらすぐにうまくいくのでしょうか。

「サービスを絞ることで、それ以外のチャンスを捨ててしまうのでは……」という恐怖は、なかなか消えないかもしれません。実際、幅広いメニューを揃えても成果が出なかった私が、いざサービスを絞り込んでみたときも、すぐに目に見える結果が出たわけではありませんでした。

そこで気づいたんです。 「私のような専門サービスの仕事は、今すぐ誰かに必要なタイミングじゃなかった」というだけのこと。そして、もっと本質的な事実は、「絞り込もうが、広げようが、どっちにしても最初は仕事がない」ということでした(笑)。

こうなると、もう安心するしかありません。 どっちに転んでもゼロからのスタートなら、無理に風呂敷を広げて自分をすり減らす必要はないんです。

むしろ、中途半端に広げて「何となく来た仕事」に追われるよりも、自分が100%自信を持って提供できるものに集中したほうが、結果として「質の高い実績」に繋がります。起業初期の不安定な時期だからこそ、「選ばれなかったらどうしよう」という恐怖を捨てて、「自分が選ばれたい領域」に賭けてみる。この覚悟が、実は一番の近道になります。

大企業ですら「選択と集中」。小規模な私たちが戦うための鉄則

経営の世界には「選択と集中」という言葉があります。これは決して大企業向けのスローガンではありません。むしろ、人・物・金・時間というリソースが圧倒的に不足している起業家や小さな組織こそ、この考え方を徹底しなければ勝ち目はないのです。

膨大な予算をかけられる大企業ですら、新規事業を立ち上げる際はターゲットや領域を徹底的に絞り込みます。それなのに、私たちのようなスモールビジネスが「誰でもいいから来てください」と全方位に網を広げてしまえば、力負けするのは目に見えています。

また、これは商品・サービスの「質」の問題にも関わってきます。私の行政書士としての法務実務を例に挙げれば、扱う分野を絞ることで、特定の許認可の要件や最新の法改正情報を、より深く、よりスピーディーにキャッチアップできるようになります。この「深さ」こそがお客様に対する信頼の担保になり、結果として経営を守る「強い実務支援」に繋がります。

「あれもこれも」と手を出すことは、一見チャンスを広げているようでいて、実は「一顧客あたりの提供価値」を薄めてしまっているかもしれません。まずは狭い領域でナンバーワンの旗を立てること。それが、ビジネスを安定させるための戦略です。

まとめ

結局、私は今、自分の事業領域を「起業・新規事業の実務支援」に絞り込んでいます。

もちろん、今でも「もっと広げたほうがいいのではないか」という不安がゼロになったわけではありません。しかし、あえて退路を断って絞り込んだことで、自分自身が「何のために、誰の役に立ちたいのか」を迷いなく語れるようになりました。

「絞り込む」ことは、何かを捨てることではなく、自分の情熱とリソースを「一番届けたい相手」に集中させるプロセスです。

もし今、あなたが「やりたいことが多すぎて整理がつかない」とか「何でも屋になっていて自分が削られている」と感じているなら、一度立ち止まって、一番自信のある商品・サービスに旗を立ててみてください。

「どっちにしても、最初は仕事がないから大丈夫」

この開き直りこそが、あなたのビジネスを尖らせ、結果として誰かに見つけてもらうための第一歩になるはずです。